アイスランドの光
アイスランドを訪れた。
冬の北緯65度。
日の出は11時、日の入りは15時。
日本では考えられない日照時間だ。
訪れる前から、日照の短さが活動の制約になることはわかっていた。ただ、実際にその土地におり立ってみると、どうやらそういうことだけではないらしい。「4時間」という客観的時間(クロノス:chronos)の短さだけが、人間の活動に影響を与えるわけではないのかもしれない。
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日が低い。
遅かれそのことに気がついたのは、写真をある程度撮り収めた、野外での活動一日目の午後だった。写真にあらわれる色の寒暖は、カメラの設定で調整するのだけれど、何か違和感を感じたのである。寒々とした景色であるはずなのに、どこか暖かい色なのだ。
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少し考えてみれば当然で、日の高さが低いということは、太陽の光が地平に入る角度が小さく、鋭角になる。そうすると、赤みを帯びた光線だけが地球の空気の層を抜け、私たちのもとに届く。青みを帯びた光線は反射され宇宙空間に帰っていく。(これは波長の関係だ)
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誤解を恐れずに言えば、夕暮れの色が続くということ。(しかしながら、夕暮れの意味自体がゆらいでいるということなのだ。)
マジックアワーと呼ばれるその色は、日本のそれより長く続く。微かなグラデーションの変化がとても美しいのであるが、写真を撮る者にとっては相応に技術が求められることでもあり素直には喜べない。
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”ユミルの住んでいた太古には、砂もなければ、海もなく、冷たい浪もなかった。大地もなければ、天もなく、奈落の口があるばかりで、まだどこにも草は生えていなかった。[四]
やがて、ブルの息子たちが、大地をもちあげ、名高いミドガルズを作った。太陽は南から大地の石の上を照らし、地には青々と緑の草が萌えた。[五]”
(「エッダ 古代北欧歌謡集」巫女の予言より)
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アイスランドの美しい色は、土地を照らす光によるものだ。地球の大地というエネルギーに、光があたる。霧や雲があらわれて、雨雪が降り、わずかながらも苔や草たちが芽吹き、生命が続いていく。あらゆるものに光がそそぎ、姿があらわれ、色となる。そこに住まうあらゆるものは光によってその形と色を変えているといっていい。
光が異なれば、色は異なる。
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そして、何よりも、アイスランドの時間は、私たちが普段暮らしている時間とは異なる時間であった。それは時差とか客観的時間というよりも、まず光に起因することのように感じられた。
光が異なれば、時間は異なる。
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私たちに、光はどのようにさしているのだろう?
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All photo by Tomohiro Sato